情報光学研究室
■研究内容
GI型ポリマー並列光導波路の特性
コアサイズ・屈折率分布・伝搬損失・分散
実際に,作製された4チャンネルPPOWの写真断面写真及び断面コア部の屈折率分布を測定した際の干渉縞パターンを下図に示します.断面上で,等高線状の干渉縞パターンが見られ,円形コアが放物線状の屈折率分布にて形成されていることが分かり,また4チャネルのコアが並列してPPOWを構成していることが分かります.試作したPPOWでは,コア径を50〜100ミクロンと自在に調整することが出来,また,隣接チャネル間距離(ピッチ)を狭めることも容易であるという特徴があります.ピッチを狭めることにより,チャネル間のクロストークが懸念されますが,屈折率分布型コアでは,伝搬する光信号をチャネル(コア)の中心付近に強く閉じこめる効果があるため,従来型のSI型光導波路に比べてクロストークの大幅な低減が可能となりました.これは,上述の2)の効果に基づく効果であると言えます.
 このPPOWの1チャネルにより,12.5Gb/s-3mの伝送実験を行った際のアイパターンを同じく下図に示します.従来の矩形・段階屈折率分布型導波路では,その作製工程のため,3m長の導波路を得る事が困難だったことや,損失,帯域面などから10Gb/s以上の信号を1m伝送した例14が最大のビットレート・距離積の記録でしたが,このPPOWにより,さらにビットレート・距離積記録が更新されました.筐体内では,数m以上の距離の必要性は少ないですが,この低伝送損失,広帯域PPOWにより,筐体内光リンクの設計の自由度が増すと言えます.さらに全4チャネルに対して12.5Gb/s並列伝送を行うことで,12.5×4=50Gb/sのスループットが得られることになり,12チャネルのPPOWを実現すれば,150Gb/sの伝送をも可能します.
このPPOWの,今後の課題として,チャネル数,導波路構造(配列密度)ならびにボードへの実装法,信頼性などが考えられます.

 

●研究室で実際に作製された並列光導波路の断面写真(上段)と
 断面上で測定した干渉顕微鏡の画像(下段)
円形で,放物線状屈折率分布型コアが形成されていることがわかります



●円形コア中に形成された屈折率分布


●矩形コア中に形成された屈折率分布



●アクリル系光導波路は,平均で,0.1dB/cm程度のロスを有すると考えられてきましたが,GI型円形コアを形成することで,一桁低い 0.0028dB/cmを達成しています(波長850nm)アクリル材料限界の低伝送損失値が実現されました


●PPOWの1つのチャネルに850nmのVCSEL光源を用いて,12.5Gb/sの伝送実験を行った際の
アイパターン.3mの伝送距離で12.5Gb/sの伝送に成功しました.
チャネル間クロストーク
隣接チャネルへの信号光遷移(クロストーク)について示します.クロストークに関する評価は,NFPならびに実際の強度測定により定性的,定量的に評価を行うことができます.一例として,4チャネルGI型円形コア導波路(コア径50um)の1チャネル(左端)のみを励振した際の,断面の出射光写真NFPを示します.測定には,コア径50um,横方向ピッチ120um,縦方向ピッチ80umのポリマー並列導波路を用いています.波長は850nmであり,9umコアシングルモードファイバ(VCSELからのスポット径に近いコア径)で励振,50umコアマルチモードファイバを受光用途のプローブに用いました.このとき,他のチャネルへのクロストークは-30dBを下回っています.この低クロストーク性は,GI型屈折率分布による,コア部への光信号の強い閉じ込め効果に起因していると言えます. 一方,実際の並列導波路を用いたパラレル光インターコネクションを考えた場合,全チャネルが異なる信号光を伝送することとなります.そこで,2チャネルを同時に励振した際のクロストークについて検討した際のNFPを測してみました. 1チャネルのみ励振時には,最近接チャネルに若干のクロストークが見られるものの,その他のチャネルからの出射光は観測されていません.これに対して,1番目と3番目のチャネルを同時に励振した際には,2番目のチャネルのクロストーク光は,理論通り,3dBの増大が見られました.しかしながら,定量的な測定結果から,8つの全チャネルを同時励振している場合のクロストークは-26dBと見積もられ,十分に低クロストークを維持出来ている事が分かります. このクロストークは,コア部の開口数を最適化することで,さらなる低減が可能であることが分かりました. これは,コア内の伝搬モード間のモードカップリングの強度に起因することまで分かっているが,母材をPMMAとした場合の実験結果であり,他のポリマー材料を用いた場合や,コア径が異なる場合に,必ず同じ傾向を示すか否かは明らかにできていません.このクロストーク低減のための最適導波路構造については,理論的な考察が今後必要となります..
  


●GI型ポリマー並列光導波路の1つのコアに光信号を結合した際の,出射端
励振されたコア以外からの出射光は見られず,クロストークが小さいことがわかります.







●ポリマー並列導波路では,全チャネルに独立の信号光を伝搬させる必要があるため,全チャネルからのクロストークの影響を
考える必要があります.実際に,2つのチャネルを同時に励振した場合のクロストークを測定し,1チャネルのみ励振した場合と比較してみました.

チャネル間クロストーク要因の理論解析
ポリマー並列光導波路中のチャネル間クロストークを引き起こす要因として,「モード結合」と「モード変換」を考える必要があります.「モード結合」は,複数の,近接しているコア内の伝搬モードの中で,伝搬定数が等しい(近い)モード間に生じるエネルギー遷移により生じ,特にシングルモード光導波路,光ファイバに関して,モード結合は,電力結合理論により詳細に解析されています.方向性結合器などは,このモード結合を積極的に利用したデバイスであり,また,最近,エクサビット級の伝送を実現する目的で検討が進んでいる,マルチコア(シングルモード)光ファイバ内でのコア間クロストークに関して,このモード結合は問題になっており,様々な設計が提案されています.
  これに対して,ポリマー並列光導波路に関しては,コア径が非常に大きく,極めた多数のモードが伝搬する上に,通常は,ピッチが100〜250umと十分に大きく設計されているため,モード結合によるクロストークは,あまり問題にはなっていませんでした.一方で,ポリマー自身の「光散乱」損失や,導波路構造の欠陥に由来する散乱損失などにより,コアからクラッド部へと漏洩した信号光が,再度,隣接コアの伝搬モードへと変換されることにより生じるモード変換由来のクロストークは,ポリマー並列光導波路中では,構成するポリマー材料や,導波路構造によっては,大きな問題となり得ます.実際に,ポリマー光導波路の多くは,伝送損失が0.1dB/cm(850nm)を上回っており,その損失要因としては,炭素−水素の吸収損失以上に,ポリマー固有の散乱損失が考えられます.その場合,モード変換は,より深刻なものとなりえます.
 そこで,当研究室では,光線追跡法を応用し,簡単な手法で,ポリマー光導波路の伝送損失(散乱損失)とモード変換によるクロストーク特性を関連付けることを試みています.実際に,GI型導波路の1つのコア中を伝搬するスキュー光線の軌跡を示します.伝搬中に散乱される場合は,コアからクラッドへと光線が漏洩し.再度,クラッドと空気の界面で全反射されている様子を視覚的に捉えることができます.
 この光線追跡法による解析手法を用いて,GI型ポリマー並列光導波路(3チャネル)の中央のコア部に光を結合し,両隣のコアから出射されるクロストーク光の大きさについて,計算してみました.光線の入射については,光源となるVCSELの「小スポット」を想定して,限定モード励振(RML)としています.散乱損失が全くない,理想的な導波路の場合には,入射した光線は,ほぼ全て,中央の「励振コア」のみから出射しており,さらに,コア中心にのみその出射光分布が局在していることがわかります.これに対して,コア部にのみ,散乱因子が存在したと仮定し,その頻度から,散乱損失が0.0575dB/cmであったとすると,励振コアの出射光分布が大きくコア全体に広がりを見せ,さらには,隣接コアからのクロストーク光が確認されています.このとき,隣接コアのクロストークは,左,右のコアについて,それぞれ,-18.9dB,-19.4dBと計算されています.この様に,散乱損失によるモード変換は,励振コアのNFPを大きく変えるだけでなく,クロストークにも大きく影響を及ぼしうることが定量的に解析出来ることがわかります.



●GI型ポリマー並列光導波路の1つのコアの(30,0)の点より光線を入射した際の軌跡です.スキュー光線となっており,螺旋状に伝搬している様子がわかります. 




   ●GI型ポリマー並列光導波路の1つのコアの(30,0)の点より光線を入射し途      中で散乱点に衝突して,散乱される光線.散乱光がクラッド部へと漏洩し,  さらに 空気との界面で全反射されています. 



●GI型ポリマー並列(3コア)光導波路の中央のコアに光線を入射し3cm導波した際の出射NFP.散乱損失が0dB/cmの場合,励振コア(中央のコア)のみから出射光が確認され,さらに,出射光がコア中心に局在していることがわかります.



      ●GI型ポリマー並列(3コア)光導波路の中央のコアに光線を入射し3cm導       波した際の出射NFP.散乱損失が0.0575dB/cmとなると,励振コアの          NFPは,コア全体に広がりを見せ,さらにクロストーク光が隣接コアより   観測されます.
     
GI型導波路の作製法 GI型導波路の作製法
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© 2006 Takaaki Ishigure, DCP & Keio University